リツコとゲンドウについて
リツコ 「男と女はわからないわ。ロジックじゃないもの」
第21話「ネルフ、誕生」より
そう。ロジックでは分らないのが、リツコとゲンドウである。私は、エヴァの登場人物の中で、誰と付き合いたいかと聞かれれば、ためらう事なくリツコを選ぶ。(私はユイのファンでもあるが、彼女は怖い・・・。) どうでも良い事だが、私がリツコに惚れたのは、第5話のミサトの部屋でのシーン(右画像)。もの悲しげな表情で「生きることが・・・」と言うのを聞いて以来の事である。今にして思えば、既にこの時、「悲しい恋をしている」リツコは、自分の身に起こる悲劇を予感していたかのようである。 なので、分らないと言われても、ついつい考えてしまうのである。とすれば、やはり、定番の「謎」は、これである↓ |
1. リツコを射殺したときのゲンドウの最後の台詞は何だったのか?
ゲンドウ 「赤木リツコ君、本当に・・・・・・」 (厳しい表情、冷静な口調)
リツコ 「嘘つき」 (泣き笑いのような表情、諦めたような、甘えたようなとも言える口調) (撃たれる)
このシーンにはスゴ〜ク落ち込んだ。しかし同時に、カスパーに娘(リツコ)を裏切らせるという展開は「スゴイ!」と思った。第13話ラストの彼女の台詞、「カスパーは女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいることを守ったのね・・・ほんと、母さんらしいわ」が、伏線として見事すぎるくらい見事に生かされている。やはり庵野監督は天才だと思った。
なので、ゲンドウの台詞が何だったかは、私にはどうでも良いことだったのだが、リツコの供養のためにも、10年ブリにこの問題について考えてみること� ��した。しかし、上のやりとりだけでは、推定は不可能である。いささか腹立たしい事であるが、関係者の証言を参考にせざるを得ない。しかし、その内容は、おおいに好奇心を刺激するものである。
山口由里子さんの証言 その1
以下は、"End of Evangelion" パンフレットに掲載された、リツコ役声優の山口由里子さんの文章である注)。
「嘘つき」、この言葉を最後にリツコは消える。一体、何に対しての「嘘つき」なのか。台本上のラストシーンは、
碇「赤木リツコ君、本当に・・・」、
リツコ「嘘つき(撃たれる)」
とあるだけで、「本当に・・・」の後の言葉はたくさん想像できるが決められない。それほどリツコと碇の関係は複雑だった。科学者としての赤木リツコの内面は、碇ゲンドウに愛を捧げた一途な女であり、碇に裏切られ自殺した母ナオコと同じ道を歩んでしまった、愚かな女とも言える。私としては、潔く死んでいくことを願い、都合のいい、従順な女で終りたかった。
だが前回の劇場版のリツコは、恨みだけを碇に向ける嫉妬深い女で終っている。私は納得がいかず、碇に殺されることを受け入れたかった。それには「嘘つき」の解釈がとても重要に思えた。そして本番を迎えて・・・。庵野監督は、私の気持ちを察してくれたのでしょうか。いざ本番というとき、最後に
可能なクモの咬傷のために何をすべきか隠されたヒントをひと言与えて下さいました。その見事なひと言に私、赤木リツコは、完敗致しました。庵野監督、今更ながらすごいです。もう、かっこいい、天才よ。
(以下は関係者への謝辞である。本論とは関係ないので省略する。)
注) yasuaki氏のHPに掲載されていたものの転載である。青字は引用者による。私自身は、パンフレットを見たワケではない。
私は、ストーリーの流れからよりも、むしろ監督の「隠されたヒント」が何であったかを推測する事によって、ゲンドウの台詞を推定するアプローチを採る。山口さんの記事から、以下の疑問が生じる。監督は、あくまで「ヒント」を教えたのであって、台詞自体が何であったかを山口さんに教えたのではなかったようである(この想定については、後で再検討する)。それは、赤木リツコを演じる山口さんをして「完敗」と思わしめるものだった。その「隠されたヒント」とは何だったのか?
更にもうヒトツ有力な手掛かりとなるのは、第24話におけるゲンドウとリツコの会話である。
ゲンドウ 「君には失望した」
リツコ 「失望? 最初から期待も、望みも持たなかったくせに! 私には何も!何も!何も!・・・」
こう叫んで、リツコは嗚咽する。リツコが射殺される時に泣き笑いのような表情を浮かべたのは、ゲンドウの最後の台詞が、「私には、期待も望みも、何も持たなかったくせに!」に対する、ゲンドウからの回答だったからだと考えるべきである。ストーリーの流れからすると、ここは、そうあるべきなのだ。
ここから先は、ロジックではない。
私は、監督の「隠されたヒント」の「ひと言」は、「サブタイトルだよ」というものだったのではないかと推理する。「まごころを、君に」の英文サブタイトル、 " I need you." である。 この言葉は、補完が進行してマヤの前に現れたリツコの化身がPCに打ち込んだ言葉でもある。(右画像)。この言葉に感極まったマヤがリツコに抱きつくと、マヤの身体は融解して、LCLと化す。 リツコがマヤに与えた最後のメッセージが、ゲンドウに告げられた最後の言葉と同じものだったとすれば、そしてそれが、サブタイトルという重い言葉であるとすれば、リツコは大人しく成仏せざるを得ない。山口さんが、それを「完敗」と受け止めた事は、(少なくとも私には)、よく理解できる。 |
この仮説によれば、
- 山口さんの、「隠されたヒント」という謎めいた表現を説明できる、
- 「完敗」という山口さんの感想を説明できる、
- 「私には、期待も望みも、何も持たなかったくせに!」に対するゲンドウの返答とみなすことができる。
「赤木リツコ君、本当に、アイ ニーデュー」
だったと主張しているワケではない。これでは喜劇になってしまう。私が考えるのは、
「赤木リツコ君、本当に、私には君が必要だった」か、
「赤木リツコ君、本当に、君は必要な存在だった」、
である。長いと思われるかもしれないが、画像を見ながら間を計ってみた。「本当に」の後の遠景シーンを含めれば、十分入る長さの台詞である。しかし、この説には、以下に示す山口さん自身の発言と矛盾するように思えるという障害がある。
あなたの血圧を読み取るための方法
山口由里子さんの証言 その2 (ラジオ番組での発言より)
上記の注)に示したHPには、ラジオ番組に出演した際の山口さんの発言が引用されており、
「とても簡単な言葉です。みなさんの考えているとおりだと思います」
とのこと。上記HPでは、「この時期、この番組で『愛している』派と『ありがとう』派が争っていることを、山口さんは聞いていると考えられるため、『愛している』か『ありがとう』の2択である可能性は高い」と論じ、
「山口さんは、当初、それが非公開の言葉だとは知らずに、映画パンフにコメントを書いていたそうです。ところが、絶対言ってはいけないといわれ、あわてて修正した」そうで、最終的に、上に引用したパンフレットの文章になったとの事である。
(青字による強調は引用者による)
< br/>私には、証言「その1」と「その2」は、食い違っているように思われる。問題は、山口さんが、ゲンドウの台詞が何であるかを監督から聞かされたのかどうかだが、「その1」によれば、監督から聞いたのは、あくまで「隠されたヒント」である。ところが、「その2」では、ゲンドウの台詞が何であるかを聞かされたかのような発言をしている。
私は、どういう経緯でこのような発言となったのかを、以下のように推測する。
- 監督から「隠されたヒント」を聞かされ、山口さんはそのヒントからゲンドウの台詞を容易に推測することができた。
- 山口さんが推測したゲンドウの台詞は、「とても簡単な言葉」で、それは「みなさんの考えているとおり」のものだった
- パンフレットの初稿に、山口さんが感銘を受けた「隠されたヒント」を書こうと思ったが、スタッフから止められ原稿を書き直した。
山口さんの解釈(推定):
Ritsuko Akagi, indeed, I need you. → I love you. → 「君を愛している。」
私の解釈:
Ritsuko Akagi, indeed, I needed you. → 「君は必要な存在だった。」
である。「潔く死んでいくことを願い、都合のいい、従順な女で終りたかった」そして「碇に殺されることを受け入れたかった」と言う山口さんは、" I need you." のヒントから、時制を過去形に変えずに、ゲンドウの台詞を、素直に「本当に、君を愛している」と解釈したのではないか思う。私としては、リツコに魂を吹き込んだ、リツコの分身である山口さんの解釈と「思い」を否定する事はできない。
しかし、私は男性として、ゲンドウの立場からこの台詞の意味を解釈したい。これは、リツコを利用した事を認めた台詞である。リツコが、身体も才能も、すべてをゲンドウに捧げたことは、本当にゲンドウが必要とした事だったが、彼はリツコを利用したに過ぎなかった。
冷酷な言葉ではあるが、最後の間際でゲンドウがリツコに嘘を付かなかったのは、リツコに対する彼なりの誠意を示したものと考える。それがリツコに伝わったから、「嘘つき」(泣き笑い)となったので� �ないか。もし、ゲンドウがあからさまな或いは白々しい嘘を言ったとすれば、リツコの台詞は「嘘つき!」(怒号)であるべきだ。
AIDS / HIVどこから来たのですか?
要するに、私の結論は、ゲンドウの最後の言葉は、「" I needed you." に相当する日本語」というもので、これをどう訳すか(どう受け取るか)は、それを知った者が決める、というものである。これを、うまく訳すのは、けっこう難しい。一応、上に訳を示したが、「必要」という漢語を使うと、どうしても堅く、ぎこちなくなってしまう。(あるいは、「私は君が欲しかった」でも、なんだかなーという感じである。)それゆえに、台詞が隠されたのではないだろうか?
現時点(2007年12月)で、連載がどこまで進んでいるかは知らないが、コミック版でこの場面がどう扱われるかは、大いに興味ある所である。
第10巻には、ゲンドウがリツコにどのように近づいたかを示す場面が描かれている(p.145-146)。喪服を着ているので母親の葬式の帰りでの場面と思われるが、「女としての自分なんていらない」「母さんのようには、絶対ならない」と独白するリツコに、ゲンドウが近づき、
「君だけだ。 ナオコくんが亡くなってしまった今 私を支えられるのは」
「力になってくれ。 お母さんと同じように」
「私を」 「助けてくれ」
と言ってすがりつく。「私を助けてくれ」が、例えば「君が必要なのだ」だったら、私の推測の傍証となったのだが、残念である。「私を助 けてくれ」(I need your help.)は、" I need you."の意訳なのだと考えることにしよう。
USA のサイトより
私の解釈は英語が絡むものなので、米国のサイトではこの問題がどう議論されているのだろうと、フトした好奇心から検索をかけてみた。これがキッカケとなって、USAのエヴァサイト記事を読むのにすっかりハマッてしまった。興味を抱いた事に対する彼らの飽く事なき執念と情熱には圧倒される。
それはともかく。
海外(と言っても、私が見たのは、オーストラリア、英国、USAの英語圏諸国のものだが)でも、ゲンドウの台詞を " I love / loved you." と考える人が圧倒的に多いのは、日本と同じである。しかし、エヴァオタク・ドットコムなるサイトで、私と同じ説が提案されているのを発見した!
ここでも、上に挙げた「山口さんの証言 その1」が全文紹介されている(モチロン英訳)。一部だけ原文を引用しておく。(文中の強調と日本語は、引用者による。)
Director Anno must have noticed how I felt. When it came time to do the voice-over, he showed me a single, hidden hint (ヒトツの隠されたヒント) at the last moment. With that one incredible hint, I, and Ritsuko Akagi, were utterly defeated. (私、そして赤木リツコは、完敗しました)It hardly needs saying, but Director Anno is incredible. Truly awesome -- a genius.
山口さんの記事を受けてのサイト主の見解は、以下の通りである。以下に私の訳と原文を挙げておく。私のようにウダウダ論じないで、結論のみをサラリと示しているのは、なかなかクールである。
訳:
ゲンドウは、何と言ったのだろうか?仮説の多くは、単純に、「君を愛している/愛していた」とするものである。しかし、それでは、監督が台詞をこのように厳重な秘守扱いにした事に対し、あまりにまっとうで単純、あまりに陳腐な解釈と思われる。「愛」は、誰もが思いつく、あからさまな答えである。しかし、ゲンドウは、決して、あからさまな人間などではなかった。
個人的には、私は、「赤木リツコ君、私は本当に・・・君が必要だったのだ。」とゲンドウが言ったと信じることで満足している。
原文:
What could Gendo have said? Many of theorized it was simply, "I love/loved you." - but that seems too clean and simple, too trite, for Anno to make such a big deal about protecting the secret. Love is the obvious answer - and Gendo was never obvious.
Personally, I'm content in believing Gendo said, "Ritsuko Akagi,
I truly... needed you. "Evageek という、極め付けに内容の濃い、エヴァファンのサイトがあるのだが、ここのフォーラムでは、この説が支持を集めているようである。やはり同じ事を考える人はいるのだ。自分独自の見解、そして、これこそ真実と思える見解だと思ったのに・・・。英語を母国語とする者にとっては思いつきやすい解釈という事なのだろう。嬉しさ30%、ガッカリ70%という所である。
結局、"I love/loved you."という解釈も含め、リリンの考える事に国籍による違いはないという事である。これは他の話題(例えば、「零号機の魂は誰のものか?」)を巡る議論を読んでも強く感じた事である。
ちなみに、Evageek のフォーラム掲示板で見掛けた、「悪ノリ解釈」には以下のようなものがあった。訳を付けるほどのものではないだろう。もっと悪趣味なものもあったが、リツコのファンとしては、ここらまでが許容限界である。右の画像は、Reichu なる者が自ら作成したものらしい。 "Akagi...you were never any good in bed." | ||
コミック版では、高校時代のリツコは、悪く言えば神経質そうな、よく言えばとても繊細そうな少女に描かれている。確かに、これはこれで、やはり私の好みである。 | ||
ロシア版 Wikipedia の記述より (2008/08/30 追記)
ロシア版のWikipedia を覗いてみたら、ゲンドウの台詞に関して以下のような記述があるのを発見した。原文と訳を示す。
Есть много мнений насчет того, что произносит Гэндо непосредственно перед тем, как выстрелить. В оригинале изданной манги во время этой фразы звучит звук взрыва, поскольку штаб-квартира NERV атакована Силами Самообороны Японии. В фильме же это выглядит как молчаливая пауза. Однако, есть два основных мнения:
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